毎日当たり前のように食器からごはんを食べている愛犬を見て、「もっと刺激があったほうが喜ぶのかな?」とふと思ったことはありませんか。実は、動物たちには「楽に手に入るものより、工夫して手に入れるものを好む」という驚きの習性があるのです。

記事監修:藤田かつとし先生(CPDT-KA)
この記事は、動物福祉(アニマルウェルフェア)に基づいた科学的ドッグトレーニングの専門家、藤田かつとし先生にご監修いただきました。
藤田かつとし先生プロフィール
1999年、山口県萩市でトリミングサロンを開業。動物愛護活動を通じて「不幸な動物を減らすには?」という課題に向き合い、ドイツ・ベルリンへ渡航。そこで、日本とドイツにおける犬との暮らし方の違いに衝撃を受け、「叱らないトレーニング」の重要性を学ぶ。2017年に犬の保育園&トレーニング施設「Happy Wan 山口」を開設し、世界基準のドッグトレーナー資格「CPDT-KA」を取得。応用行動分析学(ABA)に基づき、叱らずに「良い行動を引き出す」指導を実践。2025年より「犬の保育園 ハッピーランドハレルヤ」園長に就任。科学的根拠に基づいたアプローチで、飼い主と愛犬が心から楽しみ、幸せを感じられる環境づくりをリードしている。
「楽な食事」よりも「工夫」を選ぶ動物たちの不思議
目の前に、誰でもすぐ食べられるお皿に盛られたごはんと、転がしたり動かしたりしないと中身が出てこないおもちゃに入ったごはんがあるとします。私たち人間なら「楽なほうがいい」と考えがちですが、動物たちは少し違います。多くの動物が、あえて手間のかかるほうのごはんを自ら選ぶことが研究で明らかになっているのです。
この現象は「コントラフリーローディング(Contrafreeloading)」と呼ばれています。1963年に心理学者のグレン・ジェンセン博士によって報告されたこの概念は、動物たちが決して「怠け者」ではなく、自らの行動で何かを得ることに価値を感じていることを教えてくれます。
ネズミやハトも証明した「働いて食べる」喜び
この習性を証明した有名な実験があります。ラット(ネズミ)の前に、「レバーを押すと1粒出る装置」と「床にそのまま置かれた餌」を同時に用意しました。するとネズミは、目の前の餌を無視して、わざわざレバーを何度も押して食事を得ることを選んだのです。お腹が空いているなら楽をすればいいはずなのに、彼らにとっては「自分の力で餌を手に入れるプロセス」のほうが重要だったようです。
こうした行動はネズミに限らず、ハトやサル、チンパンジー、さらにはヤギやニワトリといった身近な動物たちでも確認されています。動物にとって「環境に働きかけて結果を変える」という経験は、種を越えて共通する本能的な欲求なのかもしれません。
なぜ、わざわざ「苦労」をしてまで食べるのか

なぜ動物たちは、効率の悪い選択をするのでしょうか。理由のひとつは、野生下での生存戦略にあると考えられています。いつどこで食べ物が見つかるかわからない自然界では、常に周囲を探索し、情報を集め続けることが生き残るために不可欠です。
つまり、「ただ食べるだけ」では得られない将来のための情報収集を、本能的に行っているという説があります。
もうひとつは、行動そのものが「報酬」になっているという考え方です。「自分の力で状況をコントロールできた」という達成感や満足感が、食べ物の美味しさと同じくらい大きな価値を持っているのです。何もしなくてもごはんが出てくる環境は、動物にとって一見幸せそうですが、実は「自分ができること」を奪ってしまっている可能性もあります。
知育トイは「時間稼ぎ」ではなく「心の栄養」
犬も本来、鼻を使い、頭をフル回転させて獲物を探したり追いかけたりしてきた動物です。
知育トイは、単に飼い主さんの手が離せない時の時間稼ぎ道具ではありません。どうすれば中身が出るのかを試行錯誤する時間は、犬にとって本来の能力を発揮できる大切なひとときになります。
「もっと運動させなきゃ」と散歩の距離を伸ばすことだけが発散ではありません。「考える時間」を作ることで、犬は心身ともに深い満足感を得られます。退屈からくるイタズラに悩んでいる場合や、お留守番が多いワンちゃんには、特におすすめしたい選択肢です。
愛犬の「できた!」をサポートするためのポイント
知育トイを取り入れる際に最も大切なのは、「無理に頑張らせすぎないこと」です。
あまりに難しすぎると、犬は自信を失ったり諦めたりしてしまいます。最初は少し転がすだけでポロポロと中身が出るような簡単な設定から始め、愛犬が「自分の力でできた!」という成功体験を積み重ねられるように工夫してあげましょう。特にお腹が空きすぎている時や、初めて挑戦する時は、難易度をグッと下げてあげるのが優しさです。愛犬が自分のペースで楽しみながら、「次は何をしようかな?」とワクワクできる環境を作ってあげることが、信頼関係をさらに深めるきっかけにもなるはずです。
いかがでしたか?愛犬が知育トイに夢中になる背景には、こんなに奥深い動物の心理が隠れています。まずは今日のごはんを少しだけ、知育トイに入れてみることから始めてみませんか?