愛犬のために、今日も一生懸命お散歩に行きましたか?
「たくさん歩けば満足するはず」 「ドッグランで走らせれば、家で大人しくなるはず」
そう信じて、クタクタになるまでボールを投げたり、何キロも歩いたり……。
それなのに、家に帰ると「まだ遊ぼうよ!」と目を輝かせている愛犬を見て、絶望したことはありませんか?
「私の体力は限界なのに、どうしてこの子は疲れないの!?」
実はそれ、あなたの愛犬が「底なしの体力」を持っているからではありません。「発散のボタン」を押し間違えているだけかもしれないのです。
もし、体力を使わずに愛犬を満足させられる「魔法のような発散方法」があるとしたら、知りたいと思いませんか?

記事監修:藤田かつとし先生(CPDT-KA)
この記事は、動物福祉(アニマルウェルフェア)に基づいた科学的ドッグトレーニングの専門家、藤田かつとし先生にご監修いただきました。
藤田かつとし先生プロフィール
1999年、山口県萩市でトリミングサロンを開業。動物愛護活動を通じて「不幸な動物を減らすには?」という課題に向き合い、ドイツ・ベルリンへ渡航。そこで、日本とドイツにおける犬との暮らし方の違いに衝撃を受け、「叱らないトレーニング」の重要性を学ぶ。2017年に犬の保育園&トレーニング施設「Happy Wan 山口」を開設し、世界基準のドッグトレーナー資格「CPDT-KA」を取得。応用行動分析学(ABA)に基づき、叱らずに「良い行動を引き出す」指導を実践。2025年より「犬の保育園 ハッピーランドハレルヤ」園長に就任。科学的根拠に基づいたアプローチで、飼い主と愛犬が心から楽しみ、幸せを感じられる環境づくりをリードしている。
「疲れた犬はいい犬」の落とし穴

「疲れた犬は大人しく眠るし、イタズラもしない」 これは間違いなく事実です。
しかし、「体を疲れさせること」だけが正解ではありません。
私自身の経験をお話しさせてください。 かつての私の愛犬は、とてつもなくアクティブでした。
毎日、朝昼晩あわせて3時間の散歩
3日に1度は海で泳ぐ(夏は毎日!)
これだけやっても、家ではケロッとしていました。 「体力を削る勝負」では、人間は犬には勝てません。特に若い犬の体力回復スピードは驚異的です。
では、シニアになって足腰が弱ってきたら? 雨が続いて散歩に行けなかったら? 「動く発散」しか知らないと、犬も人も行き詰まってしまいます。
そこで鍵になるのが、体を激しく動かさなくてもできる「脳の発散」です。
第1回のテーマ:犬の最強センサー「嗅覚」を使う

ここで質問です。
「1時間の散歩」と「15分の頭脳労働」、どちらが犬を疲れさせると思いますか?
実は、多くのトレーナーが「頭を使った15分は、ただ歩く1時間の散歩に匹敵する」と言います。
その「頭を使う」ための最強のツールこそが、嗅覚なのです。
1. 犬が見ている「匂いの世界」はSFレベル
犬が地面をクンクン嗅いでいるとき、私たちは「また道草くってるな〜」なんて思いがちです。 でも、犬の頭の中では、スーパーコンピューター並みの処理が行われているのをご存知ですか?
アレクサンドラ・ホロウィッツ氏の著書『犬であるとはどういうことか』や最新の研究によると、犬は匂いからこんなことまで読み取っています。
- 誰が通ったか: 性別、直前に食べたもの、健康状態
- 相手の感情: 幸せか、不安か、興奮しているか
- 時間の経過: 匂いの薄まり具合で「飼い主が何時に帰ってくるか」を予測する
- 微弱な熱: 最新研究では、鼻先でわずかな熱放射を感知し、獲物との距離を測っていることが判明!
参考資料:Dogs can sense weak thermal radiation(犬は微弱な熱放射を感知できる)
つまり、犬にとって地面を嗅ぐ行為は、「SNSのタイムラインチェック」であり、「高度なニュースの読み取り」なのです。
これを処理するために、犬の脳はフル回転しています。だから、走るよりも心地よく疲れるのです。
2. 「うちの子、鼻が良くないかも?」は勘違い
「おやつを床に落としても、目の前にあるのに気づかないんです……」 そんな飼い主さんの声をよく聞きます。
安心してください。鼻が悪いのではありません。 「鼻の使い方を忘れている」だけです。
脳は「省エネ」な臓器なので、使わない機能はスイッチがオフになります。 でも、犬の嗅覚は本来天才的。少し練習するだけで、あっという間にその才能は開花します。 パピーからシニアまで、年齢も足腰の強さも関係なくできるのが、この「嗅覚遊び(ノーズワーク)」の最大の魅力です。
3. 明日からできる!お家で「宝探しゲーム」

「ノーズワーク」と聞くと難しそうですが、お家でやるなら「おやつの宝探し」で十分です。
これが、驚くほど犬の満足度を高めます。
【やり方は超シンプル】
- 愛犬に見えないように、部屋の数箇所におやつを隠す。
- 「探して!」の合図でスタート。
- 見つけたら褒める!
【隠し場所のヒント】
- ケージの隅っこ
- 毛足の長いバスマットの中(これ、難易度が上がっておすすめ!)
- 積んだタオルの隙間
最初は見えやすい場所から。慣れてきたら、部屋中に隠してみてください。 10分もやれば、愛犬は満足げな顔でスヤスヤ眠り始めるはずです。
4. 散歩は「歩く業務」ではなく「情報収集の旅」
これを知ると、明日からの散歩が変わります。
私たち人間にとっての「スマホを見る」「本を読む」「友達と話す」。 この知的欲求を満たす行為が、犬にとっては「匂い嗅ぎ」です。
散歩中に犬が立ち止まって匂いを嗅ぎ始めたら、 「早く歩こうよ」と急かすのではなく、 「お、今日のニュースを読んでるな」と見守ってみてください。
特に散歩の最初の10〜15分は、情報収集欲求のピーク。
ここを存分に満たしてあげるだけで、その後の落ち着きが劇的に変わります。
怖がりなワンちゃんや、興奮しやすいワンちゃんほど、この「匂い嗅ぎ」が精神安定剤になります。
次回は、「犬が本当に必要としている5つの欲求」をお伝えします。