【ドッグトレーナー監修】散歩に出るのが苦手な愛犬へ。無理をさせない「寄り添い方」【犬のしつけ新常識 Vol.26】

犬のしつけ新常識

「隣の芝は青い」という言葉があるように、愛犬のことで何かしら問題を抱えているとき、身の回りの犬たちがとても素晴らしく見えてしまうことがあります。「なぜ、あの子たちのようにできないのだろう…」比べてはいけないと思いながらも、つい落ち込んでしまう飼い主さんも多いのではないでしょうか。また実際にトレーニングを始めても、なかなか思うように進まないこともあります。今回は、そんなときのヒントになればと思い、「散歩に出ることが苦手」なケースについて書いていきます。

記事監修:藤田かつとし先生(CPDT-KA)

この記事は、動物福祉(アニマルウェルフェア)に基づいた科学的ドッグトレーニングの専門家、藤田かつとし先生にご監修いただきました。

藤田かつとし先生プロフィール

1999年、山口県萩市でトリミングサロンを開業。動物愛護活動を通じて「不幸な動物を減らすには?」という課題に向き合い、ドイツ・ベルリンへ渡航。そこで、日本とドイツにおける犬との暮らし方の違いに衝撃を受け、「叱らないトレーニング」の重要性を学ぶ。2017年に犬の保育園&トレーニング施設「Happy Wan 山口」開設。世界基準のドッグトレーナー資格「CPDT-KA」を取得。応用行動分析学(ABA)に基づき、叱らずに「良い行動を引き出す」指導を実践。2025年より「犬の保育園 ハッピーランドハレルヤ」園長に就任。科学的根拠に基づいたアプローチで、飼い主と愛犬が心から楽しみ、幸せを感じられる環境づくりをリードしている。

散歩中のトラブル・ケース「散歩に出ることが苦手」

散歩に出たら初めのうちは歩くけれど、そのうち立ち止まったり、家の方向へ戻ろうとしたりする。ある程度は歩けても、帰り道は足早に家へ戻ろうとする。知らない場所は歩けない。こうしたケースの要因は本当にさまざまです。

例えば、社会化期(生後3ヶ月)までに屋外に出る機会があまり与えられなかった、散歩コースに車通りが多い場所がある、途中で他の犬に吠えられたことがある、散歩以外にも不安傾向が高いなど、犬によって背景は違い、その子に合ったアプローチやステップも本当にさまざまなのです。

それは「逃避・回避行動」です

立ち止まる、家に帰ろうとする。こうした行動は「逃避・回避行動」です。何かしら不快に感じるものから逃げようとする行動なのですね。そのためトレーニングでも、不快に感じる刺激(嫌悪刺激)に慣らせようと専門的なアプローチをかけますが、思ったより上手くいかないケースも少なくありません。

散歩自体は喜ぶのに、途中で苦しくなることも

散歩の準備をしていると喜ぶ、玄関までは勢いよく飛び出す。ところが家から離れ始めると問題が起きてしまう。こうした子も多く見られます。飼い主さんとしては、どうにかして散歩できるようになりたい、少しでも楽しんで歩けるようにしたい、発散させてあげたい。そうした思いはとてもよく分かります。しかし犬自身は、外に出ることに不安を感じているのです。

現時点でトレーニングの介入をしていても上手くいっていないのであれば、アプローチを変える必要があります。

家の近所の散歩が難しい場合

一番頻度が多いのは、家から出発する散歩ですよね。ところがその途中で「逃避・回避行動」が出てしまう。まずはこの「逃げたいんだ、避けたいんだ」という犬からのメッセージを受け止める必要があります。

コースを変える、避ける

一番シンプルな対応は、犬の代わりに飼い主さんが「その場所に近づかない・コースを変える」ことを実行してあげることです。車通りが多いのであれば、そこを避ける。通りすがりの家から犬の吠え声が聞こえるのであれば、その前を通るコースは避ける。これですんなりいくケースもあれば、そうでない場合も多くあります。

散歩を数回に分けてみる

自宅から一歩外に出た時点から問題が始まっているケースもあります。犬も「散歩に行きたい」気持ちと「一歩外へ出ると不安を感じる」気持ちが葛藤している状態です。葛藤は強いフラストレーションを生みます。初めのうちは「散歩に出る興奮」が上回っていても、やがて「不安」が増幅して家に帰りたくなってしまう。

そこで「不安が増幅する前」に、飼い主さんがその行動を先に実行してあげます。具体的には「散歩を数回に分ける」方法です。飼い主さんが思い描く散歩コースを、無理に一周する必要はありません。

例えば1回目は散歩に出た興奮で匂い嗅ぎの行動が多いとします。それなら夢中で匂い嗅ぎしている段階で、一度家に戻り、5〜10分ほど休憩します。2回目は不安行動が出る前に帰宅し、また休憩して出る。1回目と2回目を合わせた時間が、いつもの散歩時間と同じくらいになれば終了。場合によっては、もっと細かく分けることもあります。

「安心して逃げられる場所」があるからこそ

自宅に戻ると安心する。「不安を感じても、ちゃんと逃げることができる」。この安心できる保証(逃げ道)があってこそ、不安を和らげるアプローチが有効になってきます。どうしても克服させたいからと無理に慣らせようとすると、逆に克服できなかったりするものです。

自宅周辺の刺激に反応が強くて散歩が難しい場合

自宅周辺の刺激(車・人・犬など)への反応が強い場合は、じっくり時間をかけていく必要があります。まずは可能な限り、自宅周辺の散歩は中断してもらいます。そして車で「全く違う散歩コース」へ出かけるようにします。

刺激に出会わない場所を選ぶ

出かける場所は、刺激に出会わない、または刺激との距離が取れる場所です。ハッピーわんは地方にあるので、少し足を伸ばせば大きな広場や山などがあり、そうした場所から散歩の練習をするようにしています。海は波の音や匂いに不安を感じることもあるため、山の方が犬たちも受け入れやすい傾向があります。

ロングリードで犬の行動を制限しない

このときも、自宅に戻るときと同じく、車内が臨時の避難場所です。車から短時間出て、すぐに車に戻る。これを細かく繰り返していきます。このとき犬の行動を極力制限しないよう、ロングリードを使っています。前に進む感覚刺激や、地面の匂いそのものが強化子となり、前に進む行動や匂い嗅ぎの行動が「正の強化」によって増えていきます。正の強化には喜びや楽しさが伴うので、やがてその場所で散歩することを受け入れられるようになっていくのです。

「楽しい」と感じる場所を少しずつ増やしていく

簡単に書いていますが、この段階に進むまで数ヶ月かかることもよくあります。犬が楽しいと感じる場所ができたら、そこで体験する小さな刺激(遠くの車や人など)が徐々に受け入れられるようになっていきます。こうした場所をいくつも作りながら、刺激の大きさ(音や距離など)が変わる場所を探していきます。そして、そうした場所で刺激(人・車・犬など)をある程度無視できるようになってから、初めて近所の散歩へのアプローチをしていきます。

散歩は大切、でも無理は禁物です

もちろん散歩に行くことは、精神的な健康を保つためにとても大事なことです。よくペットショップなどで「小型犬なので散歩に出なくてもよい」というアドバイスを耳にしますが、これは人に言い換えると「子供に一生部屋から出るな」と言っているようなもの。とんでもないアドバイスですよね。

ただし、犬にとって散歩に出ることそのものが苦痛なのであれば、また話は変わります。その犬にとって必要なのは「苦痛を少しでも和らげる」アプローチです。苦手なこと(嫌悪刺激となっていること)のイメージを変えるのは、犬にも人にも大変な作業です。細心の注意を払いながら、地道に取り組む必要がありますし、犬のボディサインを読む知識も欠かせません。

飼い主さんとしては「ドッグランへ一緒に」「一緒に旅行へ」と思い描くこともあるでしょう。そうした目標を持つことは、前に進むためのモチベーションとしてとても大切です。いつかそれが実現できたケースも、たくさん見てきました。しかし個の違いによって、そこまでは難しいという犬がいるのも事実です。もちろん諦めることなく向き合っていきますが、大切なのは「その子が苦痛を感じていないかどうか」。この部分を見落としてしまうと、目標どころか現時点でつまずいてしまいます。「急がば回れ」の気持ちで、一緒に取り組んでいきましょう。

最後に

「散歩が苦手」な子への向き合い方は、その子の背景や性格によって大きく変わります。同じように見えるケースでも、最適な対応は一頭一頭違うものです。もし対応に迷う場合は、「動物福祉」や「応用行動分析学」をベースにしている専門家に相談してください。

山口県の犬のしつけ教室・保育園ハッピーランドハレルヤでも、こうした散歩のお悩みについてご相談いただけます。


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