怖がりだった子が、人も犬も“大好き”になった理由

ウェルビーな世界

──小さな勇気が、大きな世界を変えた物語。

教室のドアがそっと開いた日、その子は、飼い主さんの足の影にかくれるようにして入ってきました。新しい場所に足を踏み入れた瞬間、身体がきゅっと固まり、目だけが不安そうに動いている。

この子は、時間が必要だな

すぐにそう感じました。

記事監修:藤田かつとし先生(CPDT-KA)

この記事は、動物福祉(アニマルウェルフェア)に基づいた科学的ドッグトレーニングの専門家、藤田かつとし先生にご監修いただきました。

藤田かつとし先生プロフィール

1999年、山口県萩市でトリミングサロンを開業。動物愛護活動を通じて「不幸な動物を減らすには?」という課題に向き合い、ドイツ・ベルリンへ渡航。そこで、日本とドイツにおける犬との暮らし方の違いに衝撃を受け、「叱らないトレーニング」の重要性を学ぶ。2017年に犬の保育園&トレーニング施設「Happy Wan 山口」を開設し、世界基準のドッグトレーナー資格「CPDT-KA」を取得。応用行動分析学(ABA)に基づき、叱らずに「良い行動を引き出す」指導を実践。2025年より「犬の保育園 ハッピーランドハレルヤ」園長に就任。科学的根拠に基づいたアプローチで、飼い主と愛犬が心から楽しみ、幸せを感じられる環境づくりをリードしている。

■ はじめは、ほんの小さな「一歩」も難しくて

  • 知らない場所では動けなくなる
  • 初めての人には近寄れない
  • ほかの犬を見ると、不安で表情がこわばる

その子の世界は、まだとても狭くて“怖さ”と“不安”が毎日を支配しているようでした。

■ でも、変化は静かに始まっていた

私が取り組んだのは、とてもシンプルなことです。

① 安心できる“居場所”を守る

無理に触らない。押さえつけない。

「怖かったら、逃げてもいいよ」

そんなメッセージを、環境そのものに込めました。その子の心に、少しずつ“安全”が積み重なっていきます。

② 成功体験を、小さな粒のように積み上げる

  • ただ人の近くに座れた
  • 遠くから他犬を眺められた
  • 一歩だけ前に出られた

ほんの少しできることが増えるたびに、表情がゆるむ瞬間がありました。

③ 結果よりも“その子を”を尊重する

「できた・できなかった」ではなく、その子が 何を求めているのかを最優先にしました。

その中でいま無理なくできるのは、どのくらいなのか?

その子からのサインを読み取り、心がふっと軽くなるように、そっと背中を押していきました。

■ 忘れられない “あの日の瞬間”

いつものレッスンの日。

ゆっくり、ほんとうにゆっくりと… 教室の真ん中へ歩いていきました。
そして隣にいたワンちゃんの横に、“小さく、とん” と座ったのです。

私たちは思わず目を見合わせました。

「いま、自分から来たよね…?」

その小さな一歩は、きっと、とても大きな成長であったと感じます。

そこから行動は少しずつ変わり始め、気づけば人にも犬にも、“自分から” 近づいていける子になっていました。

まるで、心に光がひとつ灯ったようでした。

■ 私たちトレーナーが信じていること

怖がりさんに必要なのは、“根性”でも“ぐっと慣らすこと”でもありません。

必要なのは、安心の積み重ね。

安心があれば、犬は自分で世界をひらき始めます。

「もう少しやってみようかな」

その小さなサインを見逃さないことが、私たちの役割です。

■ 最後に

犬たちは、本来とても優しい世界で生きています。

無理をさせず、尊重し、丁寧に向き合うとどんな子も、自分のペースで必ず成長していきます。そしてその姿は、毎回胸が熱くなるほど美しいものです。

もし同じように悩んでいる方がいらっしゃったら、私たちはいつでも寄り添います。

あなたの大切な子にも、きっとその子だけの“光る一歩”が訪れます。