【トレーナー監修】犬の行動を“誤解”していませんか?【犬のしつけ新常識 Vol.7】

犬の行動を“誤解”していませんか 犬のしつけ新常識

― トートロジー、価値観のズレ、個人攻撃のわな そして本当の原因の見つけ方 ―

記事監修:藤田かつとし先生(CPDT-KA)

この記事は、動物福祉(アニマルウェルフェア)に基づいた科学的ドッグトレーニングの専門家、藤田かつとし先生にご監修いただきました。

藤田かつとし先生プロフィール

1999年、山口県萩市でトリミングサロンを開業。動物愛護活動を通じて「不幸な動物を減らすには?」という課題に向き合い、ドイツ・ベルリンへ渡航。そこで、日本とドイツにおける犬との暮らし方の違いに衝撃を受け、「叱らないトレーニング」の重要性を学ぶ。2017年に犬の保育園&トレーニング施設「Happy Wan 山口」を開設し、世界基準のドッグトレーナー資格「CPDT-KA」を取得。応用行動分析学(ABA)に基づき、叱らずに「良い行動を引き出す」指導を実践。2025年より「犬の保育園 ハッピーランドハレルヤ」園長に就任。科学的根拠に基づいたアプローチで、飼い主と愛犬が心から楽しみ、幸せを感じられる環境づくりをリードしている。

① トートロジーとは?

まずお伝えしたいのは、犬の行動を理由づけするときに、知らず知らずのうちに陥りやすい考え方で
す。

例えば……

  • 「飼い主さんを噛んだ」
  • 「散歩でグイグイ引っ張る」
  • 「自分を見ている前でトイレを失敗する」

こんな行動があったとき、「どうしてこんな行動をするの?」と質問すると、こんなお答えを耳にすることがあります。

  • 「自分を下に見ているから」
  • 「バカにしている」
  • 「わざとやっている」
  • 「この子は頭が悪い」

しかし、私たちトレーナーは、このような考え方をしません。
というのも、これは 理由を説明しているようで、実は説明になっていない からです。

● ぐるぐる回る“理由ごっこ”

例を見てみましょう。

どうして噛んだの?
→ 下に見ているから
→ なぜそう思う?
→ 噛んだから
→ どうして噛んだの?
→ …以下ループ

このように、原因が原因の説明になっていない状態をトートロジー(循環論/同義反復)といいます。

人の場合でも……

どうして運動が続かないの?
→ 意志が弱いから
→ なぜ意志が弱いの?
→ 続かないから
→ …以下ループ

これでは解決策にたどり着けません。

犬の行動も同じ。
行動には必ず「きっかけ」と「結果」があり、それによって学習されるもの です。
この流れを見ずに「上下関係」などの抽象的な言葉で片づけると、本当の理由が見えなくなります。

② 「価値観」は定義が曖昧

「上下関係」「バカにしている」などの言葉は、人によって意味がバラバラです。

犬がする行動でも、人によってその犬が

  • A さん → バカにしている
  • B さん → いや、警戒しているだけ
  • C さん → 遊びたいだけでは?

このように見えるかもしれません。

そして人の価値観によって解釈が変わるため、対応もバラバラになります。

つまり、

  • 再現性がない
  • 科学的ではない
  • もはや“勘”で対処している状態

あなたの愛犬にギャンブルのような対応はしない方がよいし、私たちプロもおすすめできません。

③ 「個人攻撃のわな」に要注意

もうひとつ大きな問題があります。

  • 「自分を下に見ている」
  • 「バカにしている」
  • 「わざとやっている」
  • 「頭が悪い」

これらの捉え方は、すべて犬のせいにしてしまう 危険があります。

私が現場で強く感じてきたのは、

  • こうした言葉を専門家に言われて傷つく飼い主さん
  • 犬の本当の状態が見えなくなる
  • 改善がうまくいかず、悪循環にハマる

というケースが本当に多いこと。

これでは解決に向かうことはなく、結果的に誰も幸せになりません。

犬の行動は

「きっかけ → 行動 → 結果」
「三項随伴性」という流れで成り立ちます。

「行動(噛む・吠えるなど)」 だけに注目して犬のせいにしてしまうと、一番大事な きっかけ結果 が見えなくなり、改善につながりません。

④ 具体例|実際にどう分析するの?

具体例|実際にどう分析するの

最後に、実際の場面での考え方をひとつ。

● 例:「飼い主さんを噛んだ」

まずは、飼い主さんから、何をしているときに(きっかけ)噛まれたのかを伺います。

“散歩から帰って足を拭こうと、犬の足を持ったら噛まれました。

きっかけは(足を持つこと)が見えてきます。

● 三項随伴性に当てはめると…

  • きっかけ:足を持つ
  • 行動:噛む
  • 結果:手が離れる

さらに、手を足の方に近づけると身体をよじる様子なども見られるとのこと。

つまり……

  • 足を持たれることに不快感がある
  • 噛むと不快がなくなる(手を離してもらえる)

→ だから噛む行動が学習される

これが専門用語でいうと

オペラント条件づけの「負の強化」 によって強化されてきた行動です。

● 解決すべき原因は“噛む”ではない

原因は 「足を持たれることへの不快感」。
ここを改善しない限り、問題は解決しません。
無理やり足拭きを続けた結果、
嫌がり(逃避行動)が強化され、最終的に噛むところまで発展したと考えられます。

● 私たちならどうする?

まずは 足拭きを中断 します。
不快感を提供し続けた結果、噛む行動が悪化しましたね。
この行動は、さらに悪い方向へ向かう可能性が高いと考えられます。
まずは不快感を少しでも軽減できるように
「足に触られる練習」から優しく触る練習から行っていきます。
場合によっては、足を触る素ぶりから始める場合もあります。

足を持つ不快感を軽減していきながら、少しずつ目標の足拭きまで時間と日数をかけながら進めていき
ます。(本当はもっと細かいステップがありますが、ここでは割愛しますね)

まとめ:犬は“理由があって”行動しています

「バカにしている」「わざと」「上下関係」
こういったあいまいで主観的な言葉に頼ると、本当の原因から離れてしまいます。
犬の行動には必ず理由があります。
その理由は、

  • “人がどう見えるか” ではなく
  • “犬がどう感じているか”

にあります。

先入観をいったん横に置いて、

きっかけ → 行動 → 結果

というシンプルな視点で見ると、解決への道筋が自然と見えてきます。


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