「留守番中に寂しがっているから、もう一頭いれば安心かも」と考えたことはありませんか?多頭飼いが先住犬の心の支えになるケースもあれば、逆に負担になってしまうケースもあります。今回は、実際のレッスン事例を交えながら、多頭飼いを成功させるための条件と準備についてお話しします。
前回の記事【多頭飼いvol.2】多頭飼いで後悔しないために。2頭目の愛犬を迎える前に知っておきたい「犬の心理」【犬のしつけ新常識 Vol.13】「多頭飼いが愛犬の心理にどう影響するか」という研究結果について解説しました。未読の方はあわせてご覧いただくと、今回の準備編がより深く理解できます。

記事監修:藤田かつとし先生(CPDT-KA)
この記事は、動物福祉(アニマルウェルフェア)に基づいた科学的ドッグトレーニングの専門家、藤田かつとし先生にご監修いただきました。
藤田かつとし先生プロフィール
1999年、山口県萩市でトリミングサロンを開業。動物愛護活動を通じて「不幸な動物を減らすには?」という課題に向き合い、ドイツ・ベルリンへ渡航。そこで、日本とドイツにおける犬との暮らし方の違いに衝撃を受け、「叱らないトレーニング」の重要性を学ぶ。2017年に犬の保育園&トレーニング施設「Happy Wan 山口」を開設し、世界基準のドッグトレーナー資格「CPDT-KA」を取得。応用行動分析学(ABA)に基づき、叱らずに「良い行動を引き出す」指導を実践。2025年より「犬の保育園 ハッピーランドハレルヤ」園長に就任。科学的根拠に基づいたアプローチで、飼い主と愛犬が心から楽しみ、幸せを感じられる環境づくりをリードしている。
新しい同居犬が「不安」を救ってくれた理想的なケース
あるレッスンでの出来事です。その子はまだ若く、飼い主さんがそばを離れると不安で鳴き続けたり、ドアをひっかいたりする「後追い」の行動が見られました。他の犬に対しても消極的で、自分から近づくことはほとんどありませんでした。
そんな中、あるきっかけで新しい子を迎えることになったのです。はじめは距離を置いていた先住犬ですが、次第に一緒に遊ぶようになり、自分から遊びに誘う姿まで見られるようになりました。すると、あんなに激しかった飼い主さんの不在に対する不安行動が、徐々に減っていったのです。
このケースでは、先住犬にとって「飼い主さんがいない=退屈や欲求不満」というストレスが大きかったのかもしれません。新しいパートナーができたことで退屈が紛れ、エネルギーを発散できるようになった結果、先住犬の福祉(生活の質)が満たされたのだと考えられます。これは多頭飼いにおける非常に理想的な展開といえます。
第一印象で決まる?失敗しない「ファーストコンタクト」のコツ
多頭飼いを決めたとき、もっとも気をつけたいのが「最初の出会い」です。新しく来た子が、いきなり先住犬へ一直線に走り寄って飛びかかる……。そんな事態は絶対に避けなければなりません。安全なはずの自宅で怖い思いをすると、先住犬はパニックになり、相手に対して悪い印象を植え付けてしまいます。
大切なのは、お互いが「君は誰?」「自分にひどいことをしないかな?」と安全を確認し合う時間を作ることです。まずは姿が見えるけれど直接は触れ合えない状態から始めましょう。
ケージ越しに無理やり対面させるのはおすすめしません。逃げ場がない空間では、恐怖から攻撃的な行動に発展しやすくなるからです。お互いに「嫌なら離れられる」という選択肢があることが、安心感につながります。
仲良くなるために不可欠な「逃げ場」の作り方

「早く仲良くなってほしい」という飼い主さんの焦りは、時に逆効果となります。仲良くなるかどうかは犬たちの意思であり、無理強いはできません。彼らに必要なのは、「相手がいても大丈夫だった」という小さな成功体験の積み重ねです。
例えば、部屋と廊下の間をゲートで仕切り、お互いの動きは見えつつも接触はできない環境を作ってみてください。これなら、近づきたいときは近づき、疲れたら遠ざかることができます。また、「初対面を屋外で行う」のも有効な手段です。広い場所で距離を保ちながら、同じ方向に散歩をすることで、自然に相手の存在を受け入れやすくなります。
視界に入っても、近づいても、飼い主さんと接していても「大丈夫」だと犬自身が納得できるまで、じっくりと環境を整えてあげましょう。
多頭飼いに向いている子、まずはケアが必要な子の違い
多頭飼いがうまくいくかどうかは、先住犬の性格や現在の状態に大きく左右されます。これまでの経験で他犬や人に対して友好的だった子や、活発でエネルギーが有り余っているタイプの子は、良いパートナーが見つかれば多頭飼いに向いているといえます。
一方で、飼い主さんへの依存心が非常に強い場合は注意が必要です。新しい子に注目が向くことで、先住犬が強いストレスを感じ、心のケアが必要になるケースがあるからです。
また、音に敏感だったり、散歩が極端に苦手だったりと、日常的に強い不安を抱えている子の場合は、まずはその子自身の生活環境を整え、不安を取り除いてあげることが先決です。決して多頭飼いができないわけではありませんが、無理に新しい刺激を増やす前に、プロのトレーナーと相談しながら慎重に進めることをおすすめします。
まとめ:多頭飼いは「労力が4〜6倍」になる覚悟で
多頭飼いを始めると、飼い主さんの労力は単純な2倍ではなく、4倍にも6倍にもなると考えておきましょう。1頭ずつのケア、そして犬同士の関係性への配慮など、やるべきことはたくさんあります。
何よりも重要なのは、「今いる子の幸せ(福祉)」を損なわないこと。その土台があってこそ、新しい家族との楽しい暮らしが成立します。もし不安があるなら、思い切って迎える前にぜひ専門家へ相談してください。しっかりとした準備と環境設定があれば、多頭飼いは愛犬にとってもあなたにとっても、素晴らしい経験になるはずです。