【Lifestyle with Dogs】File4 藤川香さん(ネイルアーティスト)|「ピットブル・シヴァが、私の人生を変えた。」人気ネイルサロンを20年で閉じ、“大型犬と生きる人生”を選んだ女性の物語

Lifestyle with Dogs

「人は、自分の人生を変える存在に、ある日突然出会う」

それは“運命”と呼ぶにはあまりにも静かで、けれど気づけば、これまでの価値観や生き方を、少しずつ塗り替えていく。人気ネイルサロンを20年続けてきた藤川 香(ふじかわ かおり)さん。

多忙な日々の中で出会ったのは、“怖い犬”というイメージを持たれがちなピットブル・シヴァだった。犬と暮らすことは、ただ癒されるだけではない。向き合い、悩み、学び、ときに立ち止まりながら、人は犬に、自分自身の生き方を教えられていく。仕事、時間、そして“自分らしく生きる”ということ。

大型犬との暮らしが、一人の女性の人生を変えていった。

大阪・福島で愛された「BUDDHA」

NAIL SALON BUDDHA

大阪・福島。感度の高い飲食店やショップが並ぶ街の駅前に、かつて強烈な存在感を放つネイルサロンがあった。その名は、「NAIL SALON BUDDHA」。

“BUDDHA”という大胆な名前と印象的な外観に、「ここは何の店?」「バー?ギャラリー?」と、道行く人が振り返る。福島駅のホームから、「今、空いてますか?」という電話がかかってくることもあったという。

オーナーは、藤川 香さん。ネイル業界で20年以上活躍し、海外コンテストでも実績を残し、中国やアメリカでセミナー講師も務めてきた実力派ネイリストだ。

だが今、彼女の人生の中心にいるのは、アメリカンピットブルテリアの“シヴァちゃん”。取材中も、シヴァちゃんはずっと藤川さんのそばにいた。時折こちらへ近づき、ぺろっと顔を舐めてくる。世間がイメージする“怖い犬”とは、まるで違う。穏やかで、甘えん坊で、人の感情を読むように寄り添っている。

「シヴァを迎えていなかったら、今もあの働き方を続けていたと思う」

そう語る藤川さんの表情は、不思議なくらい穏やかだった。

美容師ではなく、“ネイル”だった

山口県・光市出身。もともとは美容師を目指し、大阪の専門学校へ進学した。だが、実際に学び始めると、どこか違和感があった。「なんか違う。面白くないなって思った」

そんな時に出会ったのが、ネイルだった。もともと絵を描くことが好きだった藤川さん。その才能を見抜いた先生から、ネイルコンテストへの出場を勧められる。

そして、初めて出場した大会で受賞。「そこで、“これだ”って思った」

美容師ではなく、ネイルで生きていく。人生の方向が、大きく変わった瞬間だった。

22歳で起業、海外へ広がった感性

卒業後も、さらに技術を磨くためスクールへ通い続けた。昼はサロンで経験を積み、空いた時間もすべて練習に費やした。「本当に、仕事しかしてなかった(笑)」

22歳で独立。最初は、美容室の一角を借りた小さなスタートだった。そこから少しずつ顧客が増え、自信がついた頃、大阪・福島駅前に店舗を構える。当時はまだ、今ほど福島エリアが注目される前。だが後に、その街は感度の高い人々が集まる人気エリアへと変わっていく。

サロン名「BUDDHA」は、インド文化への憧れから。“悟りを開いた存在”のように、自分もネイル業界で上を目指したい。そんな想いが込められていた。

アメリカのネイル大会では、本来ジュニア部門で出場するはずが、手違いでプロ部門にエントリー。それでも結果は、プロ部門で2位。

2006年アメリカ大会でプロ部門で受賞した時の写真

2006年アメリカ大会でプロ部門で受賞

2006年アメリカ大会でプロ部門で受賞

そこから海外とのつながりも広がり、中国やアメリカでセミナー講師として招かれるようになった。

学生時代の藤川さん

海外でセミナー講師をしていた時のプロフィール写真

好きなことを信じて、努力を積み重ねてきた人。藤川さんには、そんな“自分の道を切り拓いてきた女性”の強さがある。

忙しさの頂点で感じた違和感

サロン経営。講師活動。セミナー。スタッフ育成。ありがたいほど忙しい日々。だがその一方で、少しずつ違和感も生まれていた。「完全にキャパオーバーだった」

自分の時間がない。常に仕事のことを考えている。“このまま年齢を重ねていっていいのだろうか”そんなことを考え始めていた頃、人生を変える出会いが訪れる。

ピットブルとの出会い

藤川さんとシヴァちゃん

仕事関係の知人から、2か月だけピットブルを預かってほしいと頼まれた。正直、最初は怖かったという。「ピットブルって、やっぱり怖い犬ってイメージがあった」

だが、一緒に暮らし始めると、その印象は180度変わった。穏やかで、人懐っこく、表情が豊か。そして何より、一緒に散歩する時間が驚くほど心地よかった。

「完全にやられた(笑)」

そこから、“いつか自分もピットブルと暮らしたい”という想いが生まれた。

シヴァを迎えるための1年間

ピットブル「シヴァ」

とはいえ、当時の藤川さんは、すぐに犬を迎えられる状態ではなかった。仕事は多忙。住まいはペット不可。車の免許もない。だからこそ、1年かけて準備を始めた。仕事の整理。引き継ぎ。引っ越し。大型犬についての勉強。トレーニングの知識。

さらに、30代後半で自動車免許も取得した。「シヴァのために取った」仕事の合間を縫って教習所へ通い、わずか2か月で取得。

大型犬を迎えるということは、“可愛いから飼う”では済まされない。人生の時間、住まい、働き方、移動手段まで整える必要がある。藤川さんは、それに真正面から向き合った。

「この子が、私を選んだ」

ピットブルのシヴァちゃん

神奈川のブリーダーを訪れた日。本当は、グレイなど別のカラーの子が写真を見て気になっていた。だが、パピーたちのいる部屋に入った瞬間、1頭の子犬が一直線に藤川さんの胸へ飛び込んできた。それが、シヴァちゃんだった。

「一番気になっていた子や他の子を見ても、やっぱり最初の子が気になった」一瞬で、気持ちが変わったという。

「シヴァが、私を選んでくれたんだと思う」

その出会いから、彼女の人生は静かに、けれど確実に変わり始めた。

大型犬と暮らして変わった毎日

2022年5月。藤川さんは20年近く続けたネイルサロンを閉じた。そして同年8月、シヴァちゃんを迎える。

夜型だった生活は、朝型へ。朝6時半から1時間の散歩. そのあと仕事へ向かう日々。「すごく健康的になった」仕事で疲れて帰っても、夜の散歩が楽しみになる。ただ歩くだけの時間が、心を整えてくれる。

さらに、忙しさのあまり10年近く帰れていなかった山口の実家にも、シヴァちゃんを迎えてからは定期的に帰るようになった。ご両親は、シヴァちゃんを“孫”のように可愛がっているという。犬を迎えたことで、家族との時間まで変わっていく。

「いろんな意味で、シヴァを迎えて本当に良かったと思う」その言葉には、深い実感がこもっていた。

ピットブル「シヴァ」と友達の犬

美しく暮らすためのトレーニング

藤川さんは、インテリアへのこだわりも強い。家具。絨毯。空間の美しさ。大型犬を迎える時、周囲からは何度も言われたという。“部屋なんてぐちゃぐちゃになるよ” “大型犬だからいい家具をそろえても壊されるよ”

だが、実際はそうではなかった。家具を壊されたことも、部屋を荒らされたこともない。その理由は、トレーニングと社会化。シヴァちゃんはパピーの頃から、毎週しっかりトレーニングを受けてきた。

どこへ行っても落ち着いていて、人にも犬にもフレンドリー。興興しすぎることもなく、藤川さんのそばで自然に過ごしている。「ちゃんと向き合えば、大型犬でも小型犬でも同じだと思う」

大型犬と美しく暮らす。それは、決して夢物語ではない。飼い主が学び、環境を整え、犬と向き合うことで叶えられる暮らしだ。

シヴァ飯とミレワンフィッシュ

手作りごはん+ミレワンフィッシュで栄養満点(フードボウルも藤川さんの手作り)

今回、藤川さんがInstagramで紹介してくれたのが、「ミレワンフィッシュ」だった。シヴァちゃんのごはん、通称“シヴァ飯”は、手作り食と生肉、そしてドライフードを組み合わせたスタイル。完全な手作り食だけで栄養バランスを整えるのは難しい。だからこそ、栄養バランスを補うためにドライフードも取り入れているという。そのドライフードとして選んでくれたのが、ミレワンフィッシュだった。

シヴァちゃんとミレワン フィッシュ

投稿では、こんなふうに紹介してくれた。

  • 小麦グルテンフリー
  • オイルコーティング無し
  • 1兆個の乳酸菌配合
  • 国産カツオ・タラ使用
  • ヒューマングレード素材
  • 香料、着色料、合成保存料不使用

そして何より、シヴァちゃんの食いつきがとても良かったこと。「美味し過ぎて毎日がっついて食べてる」

大型犬にとって、食事は体づくりの土台。筋肉、毛艶、便の状態、胃腸への負担、毎日のコンディション。そのすべてに、食事は深く関わっている。「💩も綺麗で完璧」「ミレワンは総合栄養食だから、最近は、手作りしなくてもミレワンだけでいいかもと思えてきた」とも。そんなリアルな感想は、何より嬉しかった。シヴァちゃんの美しい暮らしの中に、ミレワンフィッシュが自然に溶け込んでいた。

ワンラブでつながったHANAとルドラちゃん

シヴァちゃんとお友達のロットワイラー・ルドラちゃん

藤川さんとのご縁は、山口で開催された「ワンラブ」のイベントだった。2025年11月、Archisが「犬の保育園 ハッピーランドハレルヤ」主催で開催した、“わんちゃんと楽しむイベント”。その時、たまたまInstagramで筆者の愛犬、ロットワイラーのHANAを見つけてくれたのが、シヴァちゃんのお友達のロットワイラー・ルドラちゃんのママだった。

シヴァちゃんとお友達のロットワイラー・ルドラちゃん

シヴァちゃんとお友達のロットワイラー・ルドラちゃん

「HANAちゃんに会ってみたい」そう思い、はるばる大阪から山口まで、シヴァちゃんと一緒に車で来てくれたのだ。まだ一度も会ったことがない。それでも、Instagramでつながり、“実際に会いに行こう”と思ってくれる。その熱量に、正直、感動した。

ロットワイラーやピットブル。日本では決して多い犬種ではない。むしろ、“覚悟を持って迎える犬種”なのだと思う。だからこそ、オーナー同士のつながりも、どこか特別だ。犬たちを通して、人と人が自然につながっていく。その感覚は、大型犬オーナーならではなのかもしれない。

シヴァちゃんとお友達のロットワイラー・ルドラちゃん

実は、ルドラちゃんのママは、もともと藤川さんのサロン「BUDDHA」に10年ほど通っていたお客様だった。シヴァちゃんを迎えた藤川さんの姿を見て、大型犬との暮らしに背中を押されたという。もともとロットワイラーが好きだったこともあり、やがてルドラちゃんを迎えた。シヴァちゃんがいて、ルドラちゃんがいて、そしてHANAがいた。犬たちが、少しずつ人をつなげていく。

「HANAちゃん、本当に可愛い」

藤川さんは、HANAのことを“ロットワイラーの天使”みたいだと話してくれた。優しい。でも、ちゃんと“守ってくれる感じ”がある。その言葉に、ロットワイラーという犬種の魅力が詰まっている気がした。

ロットワイラーとピットブル。どちらも、世間では少し怖いイメージを持たれることがある犬種。だが実際に暮らしてみると、その世界はまったく違う。甘えん坊で、優しく、賢く、家族想い。そして何より、“人生を一緒に生きてくれる存在”だ。「なかなか珍しい犬種だけど、迎えてみると本当に世界が広がる」藤川さんのその言葉が、とても印象に残っている。

ピットブルとロットワイラー、その先に見える景色

シヴァちゃんとお友達のロットワイラー・ルドラちゃん

ピットブルの魅力を尋ねると、藤川さんはこう答えてくれた。「本当に陽気で、いつも楽しそう」甘えん坊で、人懐っこく、まるで人間みたい。一方で、いざという時には頼もしく、家族を守ってくれるような心強さもある。

もちろん、犬種への理解は必要だ。しっかり調べること。トレーニングをすること。社会化をすること。体力や経済面も含めて、責任を持つこと。だが、それは“大型犬だから特別”というより、犬と暮らすうえで本来必要なことなのかもしれない。「大型犬だから無理って決めつけなくてもいいと思う。もちろん情報収集は必要。でも、ちゃんと向き合える人なら、その人次第だと思う」

大型犬との暮らしは、簡単ではない。だが、人生を驚くほど豊かにしてくれる。「仕事と犬の両立って、楽しい」藤川さんは、そう笑った。“シヴァのために頑張れる”。“シヴァのために、もっと稼ごうと思える”。

大型犬との暮らしには、確かにお金も時間も必要だ。車も必要になる。体力も必要になる。だが、そのぶん人生の景色は変わる。生活が整う。健康になる。行動範囲が広がる。人とのつながりも増える。そして、“幸福度”が上がる。「わんこと相乗効果で、飼い主さんも良くなると思う」その言葉には、強い説得力があった。

最後に、シヴァちゃんと叶えたい夢を聞いた。答えは、即答だった。「海外旅行!」

忙しかった頃。唯一、自分のために時間を使っていたのが海外旅行だったという。サロン経営。講師活動。セミナー。休みなく働き続ける日々の中で、海外へ行く時間だけが、自分をリセットできる特別な時間だった。「だから今度は、シヴァと一緒に行きたい」

もちろん、簡単ではない。アメリカンピットブルテリアという犬種。国によっては規制もあり、ハードルも高い。それでも、“いつか絶対に叶えたい夢”として自然にそう口にする姿が、とても藤川さんらしかった。

2022年8月に迎えたシヴァちゃんは、現在3歳。人生を大きく変えた存在であり、今では、どこへ行くにも一緒にいたい相棒になった。「20年近くやってきたサロンを閉じた選択も、間違ってなかったと思う」その言葉には、迷いがなかった。

犬を迎えたことで、人生が狭くなったわけではない。むしろ、広がった。行動範囲も。価値観も。人とのつながりも。そして、“幸せ”の感じ方も。「自分には無理だって決めつけなくてもいいと思う。もちろん情報収集は必要。でも、ちゃんと動物と向き合える人なら、大型犬でも小型犬でも、その人次第だと思う」

どれだけの熱量を持って向き合えるか。結局は、そこなのだと思う。そう話す藤川さんの隣で、シヴァちゃんは静かに寄り添っていた。まるで、これまでの人生の変化を、全部知っているかのように。

編集後記

同世代で、同じく大型犬と暮らす筆者として、取材中、何度も「わかる」と思った。仕事。 責任。 忙しさ。その中で、犬との暮らしをどう両立していくのか。藤川さんの話を聞きながら、正直、うらやましくも感じていた。

私はまだ、忙しさの真っ初中にいる。けれど、HANAと暮らし始めてから、確実に変わったこともある。HANAがいるから頑張れる。 HANAがいるから行動範囲が広がる。 HANAがいるから、人との出会いも増えた。

大型犬との暮らしは大変なこともある。 だが、それ以上に、自分の人生を豊かにしてくれる。だからこそ、いつか藤川さんのように、少し肩の力を抜きながら、好きな仕事を続け、犬たちと自然体で穏やかに暮らしていきたいと思った。

今回の取材で、特に印象的だったのは、“トレーニング”への考え方だった。Instagramで見ていたシヴァちゃんは、本当に穏やかで“いい子”。だが、その背景には、パピーの頃から今も続けている日々のトレーニングがあった。「わんちゃんを迎えたらトレーニングを受ける!というのが、日本でも当たり前になってほしい」そう話していた藤川さんの言葉に、深く共感した。

私自身、犬の保育園「ハッピーランドハレルヤ」を運営する中で、ドイツでは犬を迎える前にトレーナーへ相談したり、犬の保育園へ通うことが“当たり前”になっていることを知った。犬を迎えることは、“飼う”だけではなく、“共に生きる準備”でもある。日本でも、そんな考え方がもっと広がっていけばいい。

空間を管理するのではなく、理解し、学び、互いに幸せに生きること。シヴァちゃんやHANAは、これからの時代の“アニマルウェルフェアの象徴”になっていくのではないか。そんな未来を、これから少しずつでも発信していきたいと思っている。

取材中、シヴァちゃんは何度もぺろぺろと顔を舐めに来てくれた。そのたびに、「この子は本当に藤川さんに寄り添って生きているんだな」と感じた。そして藤川さんもまた、シヴァちゃんと出会ったことで、自分らしい人生を選び直したのだと思う。犬と生きることは、人生を変える。それも、想像していた以上に、美しく、力強く。

現在、藤川さんはネイル講師として活動している。20年近く第一線でサロンを経営してきた経験と実力があるからこそ、今は“自分らしい働き方”を選べるようになった。毎日サロンに立ち続けていた頃よりも、時間に余白ができた。犬と過ごす時間。 自分を整える時間。 好きな場所へ行く時間。そのすべてを、大切にしながら生きている。

もちろん、20年積み重ねてきた努力があったからこそ、今の自由がある。だからこそ今の藤川さんには、“頑張り切った人だけが持つ余裕”のような空気がある。無理をしていないのに、美しい。 肩に力が入っていないのに、芯がある。そんな生き方が、とても印象的だった。シヴァちゃんと藤川さんの暮らしは、 「こんな生き方をしてみたい」 そう思わせてくれる、素敵な物語だった。

松浦奈津子とロットワイラー

Lifestyle with Dogs 編集記者 松浦奈津子

松浦奈津子 プロフィール

1981年、山口県岩国市錦町生まれ。 山口県立大学国際学部文化学部卒業後、メディア業界へ。 地域情報誌編集長、古民家鑑定士1級取得、一般社団法人おんなたちの古民家設立。 2015年より株式会社Archis代表取締役。長期熟成型ヴィンテージ日本酒「夢雀」、ペット事業ほか多岐にわたる事業を展開。2022年3月、山口県立大学大学院 国際文化学研究科修士課程修了。愛犬はロットワイラー・HANA(3歳の女の子)。