「ダメ!」が逆効果になる理由とは?プロが解説する「ノー・リワード・マーカー」の落とし穴【犬のしつけ新常識 Vol.15】

No Reward Marker アニマルウェルフェア

愛犬がイタズラをしたとき、思わず「ダメ!」「NO!」と声を荒らげてしまった経験はありませんか?実は、その良かれと思った一言が、ワンちゃんを混乱させ、学習を遅らせている可能性があるのです。今回は、科学的な視点から「叱る言葉」の正体と、愛犬との信頼関係を深めるための伝え方について紐解いていきましょう。

記事監修:藤田かつとし先生(CPDT-KA)

この記事は、動物福祉(アニマルウェルフェア)に基づいた科学的ドッグトレーニングの専門家、藤田かつとし先生にご監修いただきました。

藤田かつとし先生プロフィール

1999年、山口県萩市でトリミングサロンを開業。動物愛護活動を通じて「不幸な動物を減らすには?」という課題に向き合い、ドイツ・ベルリンへ渡航。そこで、日本とドイツにおける犬との暮らし方の違いに衝撃を受け、「叱らないトレーニング」の重要性を学ぶ。2017年に犬の保育園&トレーニング施設「Happy Wan 山口」を開設し、世界基準のドッグトレーナー資格「CPDT-KA」を取得。応用行動分析学(ABA)に基づき、叱らずに「良い行動を引き出す」指導を実践。2025年より「犬の保育園 ハッピーランドハレルヤ」園長に就任。科学的根拠に基づいたアプローチで、飼い主と愛犬が心から楽しみ、幸せを感じられる環境づくりをリードしている。

その「ダメ!」が伝えていること。NRM(ノー・リワード・マーカー)の正体

犬がやってほしくない行動をした瞬間に投げかける「ダメ!」「コラ!」「あっ!」といった言葉。これらは、ドッグトレーニングの専門用語で「ノー・リワード・マーカー(No Reward Marker / NRM)」と呼ばれています。飼い主さんとしては「それは間違いだよ」「その行動をしても、いいことは起きないよ」と伝えるために使っているはずです。しかし、この言葉が実際に犬の脳にどのように届いているのかを知ると、驚かれるかもしれません。

科学的な研究結果が示す、報酬だけで教えるメリット

ニューヨーク市立大学で行われた、興味深い実験をご紹介します。27頭の犬を対象に「直径70センチの輪っかに両前足を入れる」という新しい課題を学習させる際、2つのチームに分けました。チームAは、正解したときだけ「クリック音(報酬の合図)」を鳴らす方法。チームBは、正解時のクリック音に加え、不正解のときには「ピアノのドの音(NRM)」を鳴らす方法です。その結果、報酬だけを与えられたチームAのほうが明らかに学習が早く、正解率に2倍もの差がついたのです。犬にとっては、失敗を指摘されるよりも「正解だけを強調される」ほうが、何をすべきかがシンプルで理解しやすいことが証明されました。

良かれと思った「ダメ!」が合図を壊す「ポイズン・キュー」とは

柴犬に指示をだしているところ

例えば、犬がテーブルに足を乗せたときに「ダメ!」と叱り、その拍子に犬が座ったのでご褒美をあげたとしましょう。これを繰り返すと、犬の中では「ダメ」という言葉が「オスワリ」という行動の合図(キュー)にすり替わってしまうことがあります。さらに深刻なのは、犬が「ダメ」という言葉に恐怖や嫌悪を感じている場合です。せっかくオヤツをもらえても、途中で嫌な刺激が混ざることで、本来楽しいはずの合図が「嫌な予感がする言葉」に変わってしまいます。これを「ポイズン・キュー(毒された合図)」と呼び、この状態になると犬は反応をためらったり、ストレスを感じて動けなくなったりしてしまいます。

知らず知らずのうちに増えていく「毒された言葉」たち

ポイズン・キューは、日常の何気ない場面で生まれます。例えば、ドッグランで楽しく遊んでいるときに「おいで!」と呼んで、そのままケージに入れて帰宅したり、苦手な爪切りをしたりしていませんか?犬にとって「おいで」という言葉が「自由がなくなる」「嫌なことが始まる」前兆になってしまうと、次第に呼び戻しの反応は鈍くなります。言葉を聞くだけでストレスサインを出したり、聞こえないふりをしたりするのは、その言葉が「嫌なことと結びついたポイズン・キュー」になっているからかもしれません。

叱ることで生じる副作用と、これからのしつけの新常識

「ダメ!」と叱って犬が行動をやめるのは、多くの場合、その後に続く「怒られる怖さ」を避けているに過ぎません。これには大きな副作用があります。NRMに頼りすぎると、犬は「何をすれば正解なのか」が分からず葛藤し、イライラやストレスを溜め込んでしまいます。飼い主さんとの信頼関係が揺らぎ、指示を聞かなくなるだけでなく、飼い主さん側の声も徐々に威圧的になってしまう危険性があります。大切なのは、「やめさせること」ではなく、「代わりに何をしてほしいか」を丁寧に伝えておくことです。時間はかかるかもしれませんが、お互いにストレスなく「正解」を積み重ねていく過程こそが、愛犬との最高のコミュニケーションになるはずです。


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