【Lifestyle with Dogs】File5 松浦奈津子|犬が、人と地域をつないでいった ――山を切り開いて、「犬の保育園」を作るまで 第5話

Lifestyle with Dogs

2025年4月。
私たちは正式に「ミレワン」というプロダクトを立ち上げ、本格的に販売を開始した。
気づけば、ちょうど丸1年と3カ月になる。
でも、この1年は、本当にいろんなことがあった。
その中でも、一番大きかった出来事がある。
HANAが通っていた犬の保育園が、なくなることになったのだ。

「どうしよう」と、本気で思った

私は、本当に途方に暮れた。
HANAはずっと、その保育園に通っていた。
出張の時も、トレーナーの先生たちが見てくれていた。
動画まで送ってくれる。
安心感があった。
しかも、ロットワイラー。
50キロを超える超大型犬を、安心して預けられる場所なんて、そう簡単には見つからない。
私は本気で思った。
「どうしよう」
と。
するとその時、会社のパートナーでもある副社長が言った。
「じゃあ、うちで保育園をやろう」
私は、一瞬、
「え?」
と思った。
でも、その一言が、すべての始まりだった。

山を切り開くことになった

問題は、場所だった。
色々探した。
でも、なかなか理想の場所がない。
その時、私はふと思い出した。
山育ちの私の、唯一の幼馴染のことを。
連絡すると、幼馴染のお父さんが山を開拓しているという。
その瞬間、私は直感した。
「ここだ」
と。

幼馴染は、
「え?本当にここでやるの?山の中だけど大丈夫?」
と言った。
でも私は、不思議と確信していた。
錦町の山で育った私は、土の匂い、森の空気、夏の涼しさを知っていた。
そしてHANAと暮らしていて、犬は自然が大好きなんだということも知っていた。
コンクリートより、土。
人工的な空間より、風が抜ける場所。
そういう場所だと、犬の表情が本当に変わる。
だから私は、この山を見た瞬間、
「絶対ここは、磨けば光る」
と思った。

「山奥ですか?」と、みんなに聞かれた

SNSで発信すると、
「山奥なんですか?」
と、よく聞かれた。
でも実際は違う。
湯田温泉から車で5分。
県庁と湯田温泉の間。
山口市の中心部だった。
みんな驚く。
「え?あそこに、そんな場所あるの?」
と。
でも、元々は山だった。
だから誰も、そこに土地があるなんて思っていなかった。
あの場所は、“開拓したから生まれた場所”だった。
しかも番地が、
「朝倉町1丁目1番地」
だった。
なんだか最初から決まっていたみたいで、少し笑ってしまった。

父たちが、山を切り開き始めた

そこからが、本当にすごかった。
60代、70代の父世代のパワーは、想像以上だった。
ユンボで山を切り開き始めた。
毎日。
半年以上。

幼馴染のお父さんが動き、そこに、うちの父も加わった。
木を切り、土地をならし、道を作る。
でも今思うと、あの森は、普通の人では絶対に開拓できなかったと思う。
父たちは、林業の町、山の町で育ってきた人たちだった。
だからこそ、あの森の“手強さ”がわかっていた。
幼馴染のお父さんは、土木工事も普通にできる人だった。
山の中に残っていた古い小屋まで、自分で解体していた。
竹を切っては、きれいに軽トラへ積み込み、毎日毎日、市へゴミを捨てに行く。
それを、黙々と続けていた。
私はその姿を見て、本当にすごいと思った。
あれは、普通の人にはできない。

まさに、“山の人たち”の仕事だった。心から誇りに思う。
荒れ果てていた森が、少しずつ変わっていく。
竹やぶだった場所に、風が通る。
土が見える。
犬たちが走れる空間ができていく。
私は、その景色を見ながら、何度も思った。
「ああ、ここ、本当に犬の保育園になるんだ」
と。

しかも不思議だった。
犬の保育園を作っているのに、気づけば地域の大人たちが、みんな巻き込まれていた。
犬が、人を動かしていた。
そして私は、心から思った。
この場所は、“錦町の父たち”がいなかったら、絶対にできなかった。
感謝しかない。
そして、尊敬しかなかった。
この場をかりて、改めて、繋いでくれた幼馴染、そして彰さん、香さん、私の両親にお礼をいいたい。

水が出なかった

でも、オープンまでの道のりは、本当に大変だった。
まず、水が出なかった。
山を開拓した場所だったので、水道工事が簡単には進まなかった。
私は、水道局へ連絡し、議員さんにも相談した。
「もう間に合わないかもしれない」
と思った日もあった。
でも、なんとか無事に水が通った。
私は、その時、蛇口から出た水を見て、本気で感動した。
「水」が蛇口から普通にでるありがたみを心から感じた。
こんなことで泣きそうになるなんて、自分でも驚いた。
でも、“場所を作る”って、こういうことなんだと思った。

ゴミだらけだった建物

さらに、そこにあった二階建ての建物も、想像以上だった。
片付けを始めると、コンテナ4〜5回分くらいのゴミが出た。
しかも、そのゴミを、トレーナーの先生たち自ら運び出していた。
私は、その姿を見て、本当にすごい人たちだと思った。
普通、トレーナーは犬を見る仕事だと思っていた。
でも、この人たちは違った。
犬のためなら、汗をかき、壁を塗り、ゴミも運ぶ。
本気だった。

その建物は、部屋がいくつも分かれていた。
最初は、壁を抜いて広くしようかとも考えた。
でも、トレーナーの先生が言った。
「逆に、この個室がたくさんある方がいいです」
「それぞれのわんちゃんが、集中してトレーニングできます」
私は、その言葉に驚いた。
人間目線だと、
“広い方がいい”
と思ってしまう。
でも犬たちは違う。
安心できる空間。
落ち着ける距離感。
それが大事なのだと知った。
だから私たちは、建物を壊さず、そのまま活かすことにした。
そして、自分たちで壁にペンキを塗っていった。

HANAが、壁の中に残った日

そしてある日。
宇部市のアーティスト・ハガネペイントさんにお願いして、保育園をつくることのきっかけとなった、愛犬HANAの壁画を描いてもらった。
それは、アニマルウェルフェアの象徴としてのHANAだった。
完成した壁画を見た時、私は驚いた。
本当に、HANAそっくりだった。

ロットワイラー!本気で絵になる‼と、親ばかだけど心から思った(笑)
そして、その瞬間、なぜか涙が出た。
まだHANAは生きている。
毎日一緒にいる。
なのに、涙が止まらなかった。
そして、ふと思った。
「もしHANAがいなくなっても、ここに来れば、ずっとHANAがいるね」
と。

HANAは、私の人生を変えた犬だった。
そして今、その存在が、“場所”として残ろうとしていた。

真夏の「あいさつ回り」

私は、元々地域情報誌の編集長だった。
だから思った。
これはまず、地域の人に知ってもらわないといけない。
「犬」のことになると、心配になる人もいる。
しかも、山を開拓して保育園を作る。あそこの山で何をしているのか?と、
不安に思う人がいて当然だった。
だから私は、自治会長さんを調べ、班長さんを調べ、真夏の中、一軒一軒、全部ピンポンを押して回った。
チラシをポスティングするだけじゃない。
ちゃんと会って住民の方の顔を見て、一人ひとり説明したかった。
どんな人たちが住んでいるのかも知りたかった。
これは、昔の“地域記者”時代の感覚だったのかもしれない。
記者時代、私はずっと、知らない人のところへ行っていた。
突然ピンポーンを押して、話を聞く。
最初は警戒されることもある。
どんな人が出てくるかわからない。
怖くないと言ったら嘘になる。
でも私は、どこかで思っていた。
“人なので、ちゃんと話せば、わかってもらえる”
と。

むしろ、知らない人とコミュニケーションを取る力が、ここで役立った気がする。
だから今回も、ポスティングだけで終わりたくなかった。
ちゃんと顔を見て、ちゃんと話したかった。
「犬の保育園をオープンする予定でして」
「代表取締役の松浦奈津子です」
そう言って、一人で頭を下げて回った。
数日かけて、100軒近く。
今思うと、自画自賛になるが、なかなか根性がある方だと思う(笑)
でも私は、昔から思っている。
人は、“知らないもの”を怖いと思う。
でも、顔が見えると、少し安心する。
私はそれを、記者時代に何度も見てきた。
全部回りきった頃、ある方に言われた。
「正直、あいさつがなかったら、市に言おうかと思っとった」
私は、その言葉を聞いて、逆に嬉しかった。
むしろ、こういう人と一番仲良くなろうと思った。
だから私は、
「どうしたら地域になじめますか?」
と聞いた。
「誰にあいさつへ行けばいいですか?」
とも聞いた。
すると、そこから心を開いてくださり、最後にはとても仲良くなれた。
私は昔から思っている。
”あいさつは、したもの勝ち”。
あいさつがあれば、人は案外、仲良くしてくれる。
でも、何も言わず突然始まると、やっぱり不安になる。
それは当然だと思う。

奇跡みたいに、“最強の仲間”が集まっていった

さらに、もう一つ大きかったことがある。
会社に、一人で会社のシステムを丸ごと作ってしまうエンジニアが加わったのだ。

彼も、トイプードルと暮らしていた。
名前はジグ(名前をタップすると遊べます。暇な人だけどうぞ。)
釣り好きの彼が、ルアーの名前をつけたらしい。

だから、ミレワンの考え方にも深く共感してくれた。
そして驚いたのは、その圧倒的な技術力だった。
ホームページ。
ECサイト。
犬の保育園の予約システム。
それを、次々と独自で作り上げていった。
しかも、ただ作るだけではない。
「飼い主が、どうしたら安心できるか、わかりやすいか」
を、ものすごいスピードで形にしていく。
私は、自分自身が“飼い主側”だった。
だから、
「チケットあと何回残ってたっけ?」
「今日は誰先生が担当なのかな?」
「次の予約はいつだっけ?」
そんな“小さな不便”をなくしたかった。
スマホを開けば、
回数券の残りの回数。
予約状況。(予約日の前日にはメールも届く)
担当トレーナーの出勤日。
全部すぐわかるようにしたい!
そして、そのアイディアを話すと、彼が次々と形にしていった。
私は思った。
「ああ、これは私たちだけでは絶対にできなかった」
と。
しかも彼が作ろうとしていたのは、“便利なシステム”だけではなかった。
トレーナーたちが、事務作業ではなく、“犬と向き合う時間”に集中できる環境だった。
犬を見る。
表情を見る。
空気を読む。
その時間を増やしたかった。
私はそこで初めて思った。
本当にすごい人は、
“人を助ける仕組み”を作れる人なんだ、と。
気づけば、
山を切り開く父たち。
犬を本気で考える日本トップクラスのドッグトレーナー。
そして、システムを作るエンジニア。
みんな、得意なことは違った。
でも、向いている方向
「アニマルウェルフェアを山口から世界に発信!!」
これだけは、同じだった。

「犬が幸せだと、人も幸せになる」

私はHANAと暮らすまで、犬が苦手だった。
でも今は、本気で思う。
犬が幸せだと、人も幸せになる。
そして、社会も少し優しくなる。
だからミレワンは、ただのドッグフードではない。
犬の幸せを通して、人と社会の空気まで変えていきたい。
そんな想いが込められている。

森を切り開いて、犬の保育園をつくった

2025年7月24日。
そして私たちは、森を切り開いて作った、アニマルウェルフェアの犬の保育園をオープンした。
犬が自由に走り回れる場所。
叱られない場所。
夏でも涼しい山の中。土の香り。木の香り。
犬も、人も、安心できる場所。
もしHANAが、ロットワイラーじゃなかったら。
ここまで本気で向き合っていなかったかもしれない。
ここまで必死に学ばなかったかもしれない。
そして、犬の保育園を作ろうとまでは、思わなかったかもしれない。
50キロを超える超大型犬。
力も強い。
責任も大きい。
だからこそ私は、逃げずに向き合うしかなかった。
でもその結果、犬のことを知った。
アニマルウェルフェアを知った。
人とのつながりを知った。
地域との関わりを知った。
そして、
“犬が幸せだと、人も幸せになる”
ということを、心から実感した。
今、森を切り開いた保育園では、犬たちが土の上を走り回っている。
トレーナーたちの、
「グッド!」
という声が響く。
そのポケットには、ミレワンが入っている。
犬たちは、嬉しそうに尻尾を振る。
ありがたいことに今、保育園にはトップレベルのトレーナーたちが集まってくれている。
犬を“管理する”のではなく、
“どうしたら安心できるか”を考える人たち。
私は今、本気で思っている。
アニマルウェルフェアの考え方を、山口から世界へ広げていきたい。
犬を理解し、
共に生きるという考え方を、
もっと日本に広げていきたい。
昔、犬が怖かった私が、今、そんな景色の中にいる。
人生って、本当にわからない。
でも、だから面白いのかもしれない。
ありがとう、HANA。
私のところへ来てくれて。
パピーの頃は、
何度も不安になった。
この子は、本当に幸せなのかな。
犬が苦手だった私のところへ来て、
良かったのかな、と。
でも今は思う。
HANAは、自分でここを選んで来てくれたんじゃないか、と。
だから私も、
この出会いを、大切に生きていきたい。
そしてその物語は、まだ続いている。

HANAが毎日食べているごはん

アニマルウェルフェアの考え方から生まれた Family Food®「ミレワン」。
犬の保育園の現場でも使われている、“食べる楽しさ”と“学ぶ楽しさ”をつなぐ総合栄養食です。

松浦奈津子とロットワイラー

執筆者

松浦奈津子

Lifestyle with Dogs 編集記者

元地域情報誌編集長。現在は株式会社Archis代表取締役。
長期熟成型ヴィンテージ日本酒「夢雀」、ドッグフード「ミレワン」、犬の保育園「ハッピーランドハレルヤ」を運営。

犬が苦手だったにもかかわらず、ロットワイラーHANAとの暮らしをきっかけに犬の世界へ。アニマルウェルフェアの考え方や、人と犬がともに幸せに暮らすヒントを発信している。