出かけるとき、テレビや音楽をつけたまま家を出る。そんな飼い主さまも多いのではないでしょうか。
「音があれば、少しは落ち着くかな」と選んでいるその音。じつは、音の種類によって効果にかなり差があることが、いくつもの研究でわかっています。
レッスンでも、外の物音に反応して吠えてしまう子の飼い主さまには、お留守番中に音を流しておいてもらうようお願いすることがあります。ねらいは、音楽で落ち着かせることよりも、外の音を聞こえにくくすること。これを「マスキング効果」といいます。
今回は、犬と「音」にまつわる研究結果と、マスキング効果としての具体的な使い方を、かんたんに整理してご紹介します。

記事監修:藤田かつとし先生(CPDT-KA)
この記事は、動物福祉(アニマルウェルフェア)に基づいた科学的ドッグトレーニングの専門家、藤田かつとし先生にご監修いただきました。
藤田かつとし先生プロフィール
1999年、山口県萩市でトリミングサロンを開業。動物愛護活動を通じて「不幸な動物を減らすには?」という課題に向き合い、ドイツ・ベルリンへ渡航。そこで、日本とドイツにおける犬との暮らし方の違いに衝撃を受け、「叱らないトレーニング」の重要性を学ぶ。2017年に犬の保育園&トレーニング施設「Happy Wan 山口」開設。世界基準のドッグトレーナー資格「CPDT-KA」を取得。応用行動分析学(ABA)に基づき、叱らずに「良い行動を引き出す」指導を実践。2025年より「犬の保育園 ハッピーランドハレルヤ」園長に就任。科学的根拠に基づいたアプローチで、飼い主と愛犬が心から楽しみ、幸せを感じられる環境づくりをリードしている。
先に結論:何をかけるかで、効果は大きく変わります

研究からわかっているポイントをまとめると、次のような傾向があります。
- クラシック音楽:犬が休む時間が増えやすい傾向があります。ただし、同じ曲ばかりだと慣れてしまいます。
- ソフトロック・レゲエ:長い時間流しても、リラックス効果が持続した研究報告があります。
- 人の声(朗読):落ち着いて休む時間が長くなったという研究結果があります。
- 「犬用」の音楽:一般的なクラシック音楽より特別に優れているとは言えません。
- 激しい音楽:かえって落ち着かなくなってしまうことがあります。
研究でわかったこと

ここでご紹介する研究の多くは、保護施設やペットホテルのような、犬にとって普段より落ち着きにくい環境で行われたものです。
■クラシック音楽:休む時間は増えるものの、慣れてしまう
保護施設の犬50頭を調べた研究では、クラシック音楽を流しているとき、ほかの音のときよりも横になって休む時間が長くなりました。また別の117頭を対象にした研究でも、クラシックを聴いている犬はよく眠り、吠えたり鳴いたりすることが少なくなったと報告されています。
ただし、同じ曲をくり返し流していると、犬はその音に慣れてしまい、徐々に効果が薄れていくこともわかっています。
■ソフトロック・レゲエ:長く流しても効果が続いた
そこで、「クラシック」「ポップ」「モータウン」「レゲエ」「ソフトロック」の5種類を、それぞれ6時間ずつ流して比較した研究が行われました。
その結果、心拍からみたリラックスの度合いがいちばん高かったのは、意外にもソフトロックとレゲエでした。必ずしも「クラシックだけが正解」というわけではなさそうです。
■人の声(朗読):いちばん休めたという研究も
本の朗読(オーディオブック)を流した研究では、ポップス、クラシック、犬用の音楽、あるいは何も流さない場合のどれよりも、犬が休む時間が長くなりました。人の穏やかな話し声のリズムや抑揚が、犬にとって安心感につながっているのかもしれません。
■「犬用」の音楽は、特別に優れているとは言えません
「犬の聴覚に合わせて開発された」とうたう音楽も存在します。ところが、これまでの研究をまとめたレビューによると、犬用の音楽を検証した5つの研究のいずれにおいても、一般的なクラシック音楽以上の効果は見られませんでした。2025年の比較的新しい研究でも、はっきりとした違いは一部の限定的な行動にしか確認されていません。
■低すぎる音や激しい音には注意が必要です
「低くてゆったりした音のほうが落ち着くのでは?」と思われがちですが、楽曲を低いピッチに加工すると、かえって犬が警戒しやすくなったという実験結果があります。また、ヘビーメタルのような激しい音楽は、何も流さない状態よりも落ち着きを失ってしまう傾向が報告されています。
お家での留守番では、音楽の効果は控えめです

ここまでの研究は、その多くが保護施設など、犬にとってストレスのかかりやすい環境で行われたものでした。
一方で、飼い主さまが短時間外出する一般的なご家庭での様子を調べた研究では、クラシックの効果は「ほどほど」にとどまり、朗読では顕著な効果が見られませんでした。家庭においては、もともとの静かな環境そのものが、音楽と同じくらいリラックスにつながっている可能性も考えられています。
音は、お留守番中の不安をすべて消してくれる魔法ではありません。それでも、まわりの環境を少し整えてあげる手段のひとつには十分なり得ます。それくらいの気負わない気持ちで取り入れてみるのがおすすめです。
外の音をまぎらわす「マスキング効果」という使い方

音には、犬をリラックスさせることのほかに、もうひとつ大切な役割があります。それが、外から聞こえてくる物音を聞こえにくくする「マスキング効果」です。
人の足音、車やバイクの走行音、近所の犬の鳴き声、インターホン。お留守番中、こうした音に反応して吠えてしまう子は少なくありません。お部屋の中に適度な音が一定に流れていると、外の突発的な音が目立ちにくくなり、過剰に反応するのを防ぐ助けになります。
■マスキング効果を活用するときに気をつけたいこと
- 外の音を完全にかき消すほどの大音量にはしない:人がふつうに会話するくらいの音量を目安に設定しましょう。
- 一定の調子で流れる音を選ぶ:テレビやラジオは、どんな音が飛び出すか予測がつきにくいため、音楽のほうが安心です。急に音が大きくなる曲や、インターホン・動物の鳴き声が入った番組は避けましょう。
- 出かけるときだけにしない:出かける直前にだけ音をつけると、「音が流れた=ひとりぼっちになる」という不安の合図になってしまうことがあります。在宅しているときにも、普段からときどき流しておくのがポイントです。
- 環境の工夫と組み合わせる:窓やカーテンを閉める、愛犬のくつろぎスペースを玄関や道路側から離れた場所に配置するなど、音以外の対策も併用しましょう。
ここで大切なのは、「この音楽で犬をおとなしくさせよう」とすることではなく、外の物音を目立たなくして、そもそも吠えるきっかけを減らしてあげることです。
どんな音が心地よく感じるかは、その子によって異なります。音を流し始めたら、まずは短時間のお留守番で様子を録画し、外の音への反応が減っているかどうかをチェックしてみるのがおすすめです。
今日からできる工夫

- クラシックを流すときは、同じ曲ばかりにせず、何曲かプレイリストを入れ替えてみる
- ソフトロックやレゲエなど、テンポの穏やかなジャンルも選択肢に入れてみる
- オーディオブックなど、穏やかな人の話し声を候補にしてみる
- 音量は「人がふつうに会話する程度」をキープする
- インターホンやサイレン、犬の鳴き声が入る番組・楽曲は避ける
- 「犬用」という肩書きだけにこだわらず、愛犬が実際にどう過ごしているかで判断する
まとめ:愛犬の様子を見ながら、心地よい音を選んであげましょう

- 音の種類によって、リラックス効果には差があります。
- 同じ音を流し続けると慣れてしまい、効果が薄れることがあります。
- 「犬用」という表示だけに惑わされる必要はありません。
- 音は魔法の解決策ではなく、安心できる環境を整えるための手段のひとつです。
もっとも大切なのは、宣伝文句やイメージだけで選ぶのではなく、愛犬が実際に落ち着いて過ごせているかどうかを観察しながら、ぴったりの音を見つけてあげることです。
お留守番中に吠え続けてしまう、落ち着きなく歩き回るなど、音の工夫だけでは解決が難しそうなときは、ひとりで悩まずどうぞお気軽にスタッフにご相談ください。お留守番中の様子を撮影した動画がございましたら、一緒に確認しながら、その子に合わせた安心できる過ごし方を考えていきましょう。
■参考文献
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